永興のサービスエリアを出発したのが午後十一時だった。途中、良田というインターチェンジで高速道路を降り、一軒の食堂で運転手たちは食事をとった。どうもこのバスと契約している食堂のようだったが、到着が遅れ、深夜にもなり、かまどの火も落としてしまっていた。本来ならこの時刻、すでに広州に着いているはずで、珠江に面したレストランで川風に吹かれながらビールでも飲んでいたのかもしれないが、僕らはいまだバスなのである。
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そんなつもりもなかったのだが、またしても車中泊になってしまった。寝台バスでもなく、少しリクライニングする程度の昼間用のバスである。中国のアジアハイウェーの旅のはじまりにこういう状況に遭遇していたら「中国のバスはとんでもない」「バスのなかでは満足に眠ることもできないじゃないか」などといささかオーバーヒートした言葉を綴ったのかもしれないが、中国のバスに四日も乗りつづけた僕らはすっかりバスの虫になっていて、文句ひとつ出ないのである。H君もうとうとしている。彼の体もバスのなかで眠ることができるという、まあ、こんな旅でもしなければなんの自慢にもならない体質に変わりつつあるのかもしれない。僕などは「これでホテル代一泊分か浮いた」などと若いバックバーツカーのようなことを考えていた。若い頃の旅で染みついてしまった貧乏根性は、五十歳をすぎても消えないものらしい。バスは広東省に入り、南へ、南へと進んでいく。このバスは深川行きで、途中の広州で降ろしてくれることになっていた。