人間は美しいものに憧れる

2010-12-19

私が初めてパリのオートクチュールに出会ったのは、クリスチャン・ディオールの作品だった。一九五四年のことである。ムッシュウ・ディオールの来日はなかったが、彼自身が生きている当時のこと。帝国ホテルの孔雀の間でショーが開かれた。この仕事を始めたばかりの私も見に行った。長い戦争で着るものが十分ではない状態で、まだ進駐軍が東京の町を歩いていた頃だった。そういうときに、パリのオートクチュールがやってきたわけだから、それは今、私たちがオートクチュールのコレクションを持って、ロシアや中国に行ってショーを見せるよりも、もっと驚くような出来事だったのである。しかし人間は美しいものに憧れる。現実をこえて、人間の感性に訴える何かが私の精神を満たして、とても豊かな幸せな気分になったことを今でも思い出す。貧しくても、美しいものは夢をふくらませてくれるのである。